お客がいない時代…だからこそ顧客と融合した会社が伸びている

社会の混乱とともに、お客の数は着実に減っています。消費者一人一人の購買意欲も着実に減っています。私たち商売人は、戦後、最も厳しい環境の中で、今も商売を行っているといえます。しかし、こういう時代だからこそ、買ってくれるお客がいます。今いる既存客、そしてその背後にいる、たくさんの知人たちです。この人たちに、人として、本来あるべき情の通った接触を、きちんと続けることによって、買って頂ける可能性が高まります。なぜなら、現在の混乱した時代こそが、そのこと自体を後押ししているからです。

すでに商売のやり方は、180度変わっています。そもそも、買う人が少ない時代なのですから、お客をつかまえる、買わせるといった、従来の刈取り型の販売方法は、ことごとくうまくいきません。それよりも、今の顧客と融合し、その方たちを基点に、近しい知人へと商機を広げていくほうがうまくいきます。なぜなら、社会が混乱すればするほど、人間は近しい人だけを信用し、近しい人に強く依存していくようになるからです。

今の消費者は以前のように「これが必要、あれが欲しい」という理由でモノを買うわけではありません。商品や価格以上に、人を探しているのです。「この人だったら買ってもいい!」そんな人を探しているのです。その相手が見つかった時にはじめて、強い購買欲求が生まれ、そして、長く取引していくための強固な信頼関係が生まれるのです。つまり購買欲求は、顧客と業者との日頃のなじみの中から生まれてくる時代なのです。

今の消費者は、業者の広告宣伝を信用しません。それよりも、自分の知人の言うことを最も信用します。消費者同士の横のつながりこそが、信用と情報の本流だからです。つまり新たなお客は、今いる顧客の些細な口添えによって、生まれてくる時代なのです。このような時代の変化を理解できた者が、顧客と融合するという形で伸びているのです。

私たち商売人は、お客を刈り取る、買わせるという、狩猟的な発想からの脱却を迫られています。消費者は、そのような利己的な業者を激しく嫌いはじめています。誰しも、人と人との関係性を大切にする、本格的な商いを行う業者を好み、そのような業者こそが、多くの消費者から支持され、今後もたくましく生き残っていくのではないかと、私は思うのです。

1、売れない時代だからこそ、繁盛する人たち。

時代は混乱期です。しかし、その混乱に乗じて繁盛している人たちもいます。伊那食品工業、ホテル五龍館、セイバン、セブンプラザ、ダイシン百貨店などの中小、零細企業です。彼らのようなタイプの会社は、個々に方法やスタイルは違いますが、他にも多く存在しているといわれています。しかし、概して地味で目立たず、なかなか表には出てきません。彼らは、顧客と融合することで、他社が見過ごしている、新たな巨大市場で手堅く繁盛しているのです。

2、日頃のなじみの中から購買意欲が生まれる時代

言うまでもなく、今の消費者は購買意欲が低いといえます。先行きの不安に加え、あらゆるものが過剰となり、人々は、できるだけシンプルに生きようとしているためです。従って私たち商売人は、今すぐに買いそうなお客を見つけることが、とても難しくなりました。

しかし今の消費者は「日頃のなじみの中から購買意欲を醸成させていく」という、ひとつの特徴を持っています。元々買う気は薄いが、業者との日頃のなじみの中から「買ってもいいかな」と思い始めるのです。これが社会が混乱している時代における、購買欲求の発生個所なのです。

消費者はもはや「これが必要、あれが欲しい」という理由でモノを買うわけではありません。なじみのある人、買うに値すると感じた人、一生お付き合いできそうな人と出会えた時に、その人から、何かを買おうとするのです。だからこそ、顧客と融合した会社が伸びるのです。

3、新しいお客は、今の顧客が連れてくる時代

言うまでもなく今、新しいお客を集めることができません。消費者同士の横のつながりが強まったために、広告宣伝も効かなくなりました。つまり私たち商売人は、消費者に直接何かを語って集客することが、とても難しくなってしまいました。

しかし今の消費者は「自分の知り合いの一言で、すぐに行動を開始する」という特徴を持っています。「私、この会社知ってるよ」この一言で、ほぼ確実にその業者に決めてしまうのです。知人の言葉がもっとも信用できるからです。

つまり私たちは、今の顧客が、そのように語ってくれるようにすればよいのです。そのために必要なことが、顧客との融合を図るということです。もはや売り手が、お買い得だの、高品質だの、自らを賛美して集客できる時代ではないのです。

4、高い利益を長期間にわたって生み出せる時代

言うまでもなく今、あらゆる業界でのビジネスモデルが崩壊しています。高品質な商品や専門性の高いサービスを提供しても利益が出ません。

しかし唯一、利益を長期的に出し続けることのできるビジネスモデルがあります。それは、顧客との1対1の密接な関係を築き、その顧客が将来必要とする商品を順次提供していくというモデルです。このモデルの要諦は、顧客と密接な関係性を築くという、その一点だけです。たったそれだけで、他社がこの関係の中に入り込む余地がなくなり、独占的に商品を提案していくことが可能になるわけです。

昨今、あらゆる業界で利益を出せなくなってしまった主な理由は、一般化とボーダレス化が原因です。価格、品質、技術、販売ノウハウなど、他社と差をつけられない状況が加速しています。誰もが同じことをやるようになってしまったのと同時に、誰でも同じ商売を始められるようになってしまったのです。そして、その過当競争の中に、異業種の大きな会社が、力任せに入り込んでくる。これでは、利益をあげる余地がなくなるのは当然です。

だからこそ、顧客との1対1の密接な関係が、強みを発揮するのです。顧客との1対1の閉ざされたクローズドマーケットの中には、ライバルや強者はいません。入ってくることもできません。顧客はあなたから買うことをすでに決めており、あなたもその関係の中でよりよい商品とサービスを提案していくことができる。だからこそ、安定的な利益を長期間得ていくことができるわけです。今、顧客との融合を最優先に実践している彼らは、顧客との関係性の度合いこそがすべての勝敗を分ける肝だと、すでに認識しているのです。

5、いま、多くの消費者が、業者に関係性を求めるのはなぜか。

人間は、社会が混乱すればするほど、近しい人に依存しやすくなります。戦後、今ほど社会の根本的な信用が崩れ、欺瞞に溢れている時代はありません。情報や評判が錯綜して「何を信用していいのか分からない」といった現代社会の歪もあります。その反動として、近しい知人やなじみのある業者に激しく依存していくという現象が生まれているのです。このことは感情ではなく、本能なのです。

従って今の消費者は「地に足をつけた確かな存在」を強く求めています。地道にコツコツつながりを持つ業者、安心感となじみのある業者、自分と似た価値観を持つ業者、尊敬できる業者などを求めています。人間は安定しているときには「よりよいモノやサービス」を求め、不安定なときには「安心できる存在」を求めるようになる。だからこそこの数年、消費者に安心を与えている、顧客と融合した会社が伸びているわけです。

6、混乱期における成功者は、6種類いる。

実は、これから益々混乱する社会の中で、生き残るための6種類の生存モデルというものがあります。
1つ目は、ユニクロのような、低価格の商品を大量に供給するグローバルな会社。
2つ目は、全国的に誰もが知る、高いブランド力を誇る有名企業。
3つ目は、次世代型の、新しいビジネスモデルを考案した会社。
4つ目は、ニッチ市場において、独自のオンリーワン商品を持つ会社。
5つ目は、常に高度なマーケティング活動や、魅力的なプロモーションを行える会社。
6つ目は、特定の商圏において、特定のお客と強く結びつくことのできた、地元密着型の業者。

今後の生き残りのためには、この6つのどれかに属する必要があると言われています。最も危険なのは、この6つのどこにも属さないことです。従来のように、他社がやることを真似して、他社と同じレベルでやっているだけという会社が、真っ先に淘汰されていくと言われています。逆に言えば、この6種類のどれかに属し、徹底的に取り組めば、生き残りどころか、大きく成功する可能性が高いということです。

私たちはそろそろ「どの方法なら繁盛するのか」という、方法論を選ぶことをやめなければなりません。それよりも、もっと大切なことがあります。どの方法をやるかではなく、どの道を歩みたいのか、ということです。「自分は、どの道を歩みたいのか?」そう問いかけた時に、一番自分の魅力や実力を発揮できる世界と巡りあえる。だからこそ、最高に顧客を魅了でき、結果的に繁栄も手にすることができるということなのです。従って、前述の6種類の道の中で「自分が最も力を発揮できる道で勝負する」という発想が、とても大切なのだと思います。

いつの時代でも、その時々の「流行りの売り方」というものがあります。それはそれで、とてもよいものだと思います。ただ、そのようなものは、短期間で成果が出る反面、衰退も早いのが常です。その上、次々に出てくる流行りの波に、いつでも器用に乗っていくことが求められます。私はそのような、波乗り経営のスタイルを否定するつもりはありません。それが得意な人は、それをやればいいと思います。しかし一方で、より普遍的なものと安定を好み、地に足をつけたやり方が、自分に合っていると思う人もいる。そう思う人は、それをやればよいわけで、どれが正解ということはないのだと思います。

どれほど社会が混乱し、経済が低迷しても、変わらぬ普遍的なこととはなんなのか・・・。それは、人々の生活そのものであり、人が人を求めるつながりの欲求です。混迷の時代になればなるほど、人間臭いこと、人間にしかできないこと、人間の本質に近いことが価値を増します。デジタル化、自動化、効率化が進めば進むほど、人間臭いこと、人間にしかできないこと、人間の本質に近いことが価値を増します。

今の消費者は、業者に対しても人格を求めています。私たち商売人は、価格の安さや商品の演出で消費者の気を引く前に、個としての信任を得るべく、正面から正しい接触を続けることを求められているように思います。そのことが真の信頼に裏うちされた大きな感動を生み、顧客と、生涯にわたってお付き合いできる間柄を生むことにつながります。

夫婦関係でも、友人関係でも、師弟関係でも、長く続いた関係というのは特別のことをしたわけではなく、より丁寧に関係を続けた結果に他なりませんそれは商売においても同じことなのだと、私は思うのです。

小野博史

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